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…コンコン,…コンコン…
ブライスは,意識の外側から突然聴覚に進入してきた音にはっと我に返った。自分が今まで眠っていたことを自覚して慌てた。
―しまった!アラームをかけ忘れてた!
「ブライス,起きてる?今日はレーニア山にドライブに行くかもしれないって言ってたわよね…」
おっとりとした声で尋ねながら,アセナがドアをそっと開けた。
―ああっ,この状況では言い訳できない!
待って,の一言も言えずブライスはベッドから飛び起きるのが精一杯だった。
アセナが半開きのドアから見たのは,ベッドの前に立ち尽くす呆然とした様子のブライスと,彼の足下に転がっている見知らぬスニーカー,ヘッドボードにかけられた上着。
ブライスの後ろのベッドには,人間の形に掛け布団が盛り上がっていた。
アセナが目を剥いてブライスを見た。ブライスは額に変な汗がにじむのを感じた。
「お母さん,あのさ…昨日の夜,ユウシが来て…話があるって…。それで話し込んでるうちに眠くなって,ちょっと休もうって…。で…」
「…で?」
―我ながらメチャクチャだ…。でもやましいことをしたわけでもないし…。
した…かな?
してない…よな?
「…気がついたら朝になってた…」
そのとき布団の中のかたまりが,壁際からぐるんと反対側に寝返りを打った。ブライスとアセナは飛び上がらんばかり驚き,そちらを見やった。
めくれた布団から顔が見えた。
「ユウシ…」
アセナの口から声が漏れた。その声に反応するかのように優志がゆっくりと目を開けた。立っている2人の姿を認め一瞬目をぎゅっとつぶって,あっ,と言いながら飛び起きた。
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