第4章 約束

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-どうしたんだ,ユウシ…。一体何を言うつもりなんだ…  ブライスは,一気に不安を感じた。アセナはというと,優志の真剣な面持ちにただならぬものを感じていた。 「…では,リビングに行きましょうか?」  きりりとした表情で,はいっと返事をした優志はスニーカーを履き始めた。それからバスルームを借りて,うがいをしたり顔を洗ったりしてすっきりしてしまった。  その間,ブライスがしきりと何を話したいのかを優志に尋ねたが,優志は大丈夫だから心配しないで…と言うだけだった。  優志とブライスがリビングに入ると,アセナは紅茶をいれて椅子に座って待っていた。2人はソファに並んで腰掛けた。優志はちょっとの間、足元のラグの模様を見つめた。それから,いただきます,と紅茶を一口啜った。 「あぁ,おいしい紅茶ですね…。俺の母も紅茶が好きなのでよく飲みますが,これはおいしい…」  アセナは嬉しそうににっこりした。 「気に入ってくれて良かったわ」 「はい…。 …ジョーンズさん,お話ししたい事というのは…俺,ブライスと愛し合っているので,これからお付き合いさせていただきたいのす。どうか許可してくださいっ」 「えぇっ」 「あぁっ」 アセナとブライスは同時に声を上げて,目を見開いたまま固まってしまった。  優志はしごく真面目であった。アセナの反応にどうしたらいいか正直分からなかったが,こういったことには説明が必要だろうと,さらに言葉を重ねた。 「俺たち昨夜,気持ちを確かめ合いました。2人とも真剣な気持ちです…だよね,ブライス?」 優志がブライスを振り向いて同意を求めたが,ブライスは1ミリも動けない様子だった。仕方ない,と優志は続けた。 「多分,真剣です。それで,俺たちもいい大人だし,これから大人のお付き合いをさせていただきたいと…」 「何てことだっ…ユウシ,ストップ!」 「ブライス,止めないよ。俺,来週,日本に帰るんだ…だから時間を無駄にできないんだ」  優志の言葉に切実な想いが感じられた。しかし,だからといって今,母親にカミングアウトされても困る,準備ができていないのだから…ブライスは絶望的な気持ちになった。
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