第4章 約束

10/54
前へ
/116ページ
次へ
「ジョーンズさん,俺たち,あなたに何も言わないでこっそり付き合うことも,しようと思えばできました。 俺たちこれから長い付き合いを目指しているのに,もうすぐ離ればなれになります。…それだけでも大きな障害です。 これからだって新たな障害が待ち受けていると思います。だから,今できることは解決しておきたいんです。2人でいるうちに…。  俺はブライスに比べればちっぽけな人間かも知れません。でも,俺はブライスを捕まえたんです。離したくありません。 ブライスを幸せにすることを誓うので,どうか2人の交際を認めてください。お願いします」 優志はブライスの右手を自分の左手で握りしめた。顔面蒼白になっているブライスに微笑んで頷き,その微笑みをアセナに向けた。アセナは唇を小さく震わせていた。 ―君を幸せにするよ…。僕を信じて…。  大切にしている過去の一場面がアセナの脳裏に蘇っていた。 ブライスは観念したかのように口を開いた。 「…お母さん,俺…ユウシに捕まったみたいだ。世界中を探してもこんなに素敵なパートナーは他にいない…」  沈黙が流れた。静寂の中には互いを慈しむ想いが漂っていた。セレナの頬には一筋の涙があった。 「…そのようね。私にも…判るわ」 「それじゃ,俺たちが付き合うのは許してもらえますか?」 「…諸手を上げて賛成することはできないわ。…本音を言えば,全力であなたたちに反対したい。あなたたちの関係が,時と共に変化することもあり得るし…。今,敢えて厳しい世界に身を投じることは賢明とは言えないわ。 でも,あなたたちはもう成人同士だから,自分たちでより良い関係を築く努力をして欲しいとも願ってる…。 私は,あなたたちがお互いを幸せにする,という気持ちをもっている限りは,あなたたちを支えたいと思いますよ…」 「…お母さん!」  ブライスはアセナの元に進み,彼女を抱きしめた。ありがとうと言うブライスの言葉に,アセナの目から更に涙が溢れた。 ―茨の道なのよ。みなに祝福してもらえない関係は…。  お互いに惹かれ合ってしまってからは,周囲が何を言っても受け入れられない若い2人の気持ちも,アセナは痛いほど理解していた。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加