第4章 約束

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 ブライスから手をほどいたアセナは,立ち上がって優志の方へ進んだ。優志も立ち上がった。アセナが率直な気持ちを打ち明けてくれ,それでも自分たちのことを認めてくれたことに感動していた。 愛する息子がゲイだと他人である自分から告げられ,同時に付き合いを認めてと言われたら,大抵の親は怒り狂うだろう,優志はそう思っていた。しかし,優志は僅かな可能性にかけていた。 ―ジョーンズさんは,親の反対を押し切ってブライスのお父さんと一緒になった人だ。きっと親から交際を反対される辛さを忘れてはいないはず…。  そんなことを思い巡らす自分がずるいとは思ったが,自分に親切にしてくれるアセナに隠れてブライスと付き合うことのほうが不誠実に思えたのだ。  アセナが優志の両腕に自分の腕を回して優しく抱きしめた。そして優志を見上げた。 「ブライスは,親の私から見てもとても魅力的な人間だと思うわ。ずっとこの子にも幸せになって欲しいと願っていたの。  ユウシ,あなたもとてもいい青年だわ。真っ直ぐ前向きで,私まで元気をもらえるのよ。  ブライスがあなたに逢えて,良かった…。あなたに逢ってからのブライスは見違えるように生き生きしているもの。  あなたたち2人がお互いを信頼して,幸せになれるように祈っているわ」  優志は嬉しそうに微笑んで,頷いた。 「ありがとう,ジョーンズさん。俺たち,きっと幸せになります」  優志がハーレー家に戻ってみると,ホームセキュリティーは解除されていて,優志は勝手口から首尾良く家に入ることができた。身支度を済ませると,8時半だった。そろそろブライスが迎えに来る時間だ。優志がキッチンに降りて行くと,ハーレー家の面々が小さい方のダイニングにいた。 「ユウシ,上手くいったのね!」 セアラが満面の笑顔で訊いてきた。 優志は照れるのを感じてただ微笑んで口をつぐんでいると,セアラは合点したとばかりに家族に別の話題を振った。 優志は予定通りレーニア山に行くことを告げてポーチに出た。ジェーンが何か問いただしそうな感じだったし,長居するとボロを出すかもしれないと思ったからだ。ブライスとのことはまだ公にするつもりはなかった。
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