第4章 約束

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 すぐにブライスのシルバーの小型車がやってきて,優志を拾った。ブライスは車を発車させ,優志に軽い朝食を渡した。 「さぁ,腹を満たせよ,ハニー」  その呼び方に,優志は目を白黒させて,ドギマギしながら食べ物が入った袋をがさごそと探った。その様子にブライスは声を立てて笑った。  優志がリンゴを囓っている間,ブライスはレーニア山のことを簡単に説明した。シアトルからも見えるその山は,青空の下,荘厳にそびえ立っている。山の上部のかなりの部分が氷で覆われて白く輝いていた。山頂から何本もの氷河が流れていて,山肌の険しさが際だっている。  車はワシントン湖を横断するエヴァーグリーン・ポイント・ブリッジに進んだ。優志は,初めて渡る長さ4.7キロを超える橋からの眺めに見入った。  ワシントン湖は今日も穏やかだった。橋の左側,前日ウィンドサーフィンでプレーニングした辺りを目で辿ると,その時の高揚した気持ちが蘇る。 ―昨日の自分と,今日の自分は違う。でも,今はもう一人ではない。今日の自分の方がずっとずっといい…。  橋は緩やかに弧を描いていて,車が橋の中央を越えると,ローレルハーストは見えにくくなった。優志はそのまま視線をブライスに移した。  サングラスをしているブライスの横顔が,何度見ても格好良すぎて目を離せない。サングラスが彼の男ぶりを数段上げている,と優志は思った。 「俺に見とれてる?」 反射的に目を逸らし正面に顔を戻した優志は,人をじろじろ見るなんてものすごく失礼な事をしていると恥じ入った。でも,思ったことは正直に言いたかった。 「…そうだね,サングラスをしているとすごく格好いいから…」 「サングラスしていると?まいったな…」 「いや,あの,すごく…似合っているっていう意味で…」 「そう。じゃ,じっくり見て。俺から顔を逸らさないで…ユウシにはいつでも俺を見ていて欲しいよ」 ―そうだ,相手を見つめるより,相手から目を逸らす方が失礼だよな。 「…分かった」
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