第4章 約束

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「今は運転してるからできないけど,俺もずっとユウシを見ていたいよ。俺の勇敢な恋人だからね」 「勇敢?」 「ああ,告白した翌朝に相手の親に交際を認めろって言えるの,世界中探してもユウシぐらいだ。あんなに堂々と言われて,長年カミングアウトできなかった自分が何だったんだろうって,ちょっとへこむくらいだ。とにかくカミングアウトのモデルケースだった。 母はユウシの話を聴いて,感情的になってはいけないって直感したんだろうな…。もともと母は俺のことをよく理解しようとしてくれる親ではあるけど,俺がゲイだと知ったら悲しむかと思っていた…。 それが,驚くほど建設的な話し合いができたのは,ユウシ,全て君のお陰だ。ありがとう,愛してる」  ブライスはハンドルから右手を離してユウシの左手を握りしめた。握ったままユウシの手の甲を自分の口元に持って行き口づけをした。 「俺,ここに4週間ちょっとしかいないのに,自分の気持ちに気づくのが遅くて…。これ以上は後悔をしたくないんだ」 「そうだよな。あと一週間?出発まで…」 「…あぁ,来週の日曜日の昼の便で発つ」 「そのあとのことは,少し時間をかけて考えよう。今日は初デートを楽しみたいよ」 「そうか,これはデートなんだな!」 「…えっ」  ブライスは盛大に吹き出した。  車は長い橋を下りて,南下するハイウェイ405に乗った。前方左手に山は見えた。その山に向かってひたすら真っ直ぐ走り,途中で州道167に乗り換えて南下を続けた。  2人は小さい頃の話や好きなゲーム,本,映画の話,それに優志の家族のことを話題にした。 「…姉はもう結婚しているんだけど,東京の外資系の銀行に勤めているんだ。カミングアウトするときは最初に姉に話すかな…。 それから両親には,ブライスに直接会ってもらった時にでも…。ブライスを見たら,うちの母が夢中になっちゃうかも…。ディカプリオとかトム・クルーズとかイケメン俳優が好きなんだ」 「いや,トム・クルーズはないと思うけど…。 あぁ,以前は親にカミングアウトするなんて暗い気持ちにしかならなかったけど,今はユウシの家族に会うのが,とても待ち遠しいよ。君の家族だったら上手くやって行けそうな気がする。不思議だけどね…」  ブライスは優志を見て微笑んだ。温かな笑顔だった。
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