第4章 約束

14/54
前へ
/116ページ
次へ
 レーニア山にが真横に見えて少ししてから,州道706は山に向けて東に曲がり,その標高4千メートルを超える圧倒的な姿が目の前に迫ってきた。 それから30分ほどで,ニスカリー・エントランスという木製の門を通り過ぎ,時折大きくカーブを繰り返してパラダイスに着いた。そこがいくつかのハイキングに適したトレイルの出発地点だった。駐車場にはすでに車が100台以上停まっていて,周りにはインフォメーション・センターやビジター・センター,ホテルが建っていた。  車から降りた優志は,北側そびえ立つレーニア山にしばし目を奪われた。麓からベイスギやベイマツなどのとがった形が特徴的な木々が生えていた。そして緑の木々の上に,ぐっと荒々しい岩肌の山が突き出ているのだ。優志が日本で馴染んできた緑豊かな山とは違う。 ふたりはビジター・センターで無料トレイル・ツアーに申し込み,11時からのツアーに出発間際に合流した。14人ほどの規模だった。  コースはニスカリー・ヴィスタ・トレイルという2キロほどを1時間弱で巡る初心者用だった。舗装され整備された平坦な小道を行く。木々の間を進むと,突然視界が開けてレーニア山が間近に見える場所がある。そういったポイントで参加者は山を眺め,あるいは写真を撮った。  優志とブライスはグループの最後尾に付けて,景色を眺めながらのんびりと歩いた。シアトルよりも空気が冷涼だ。 時々ブライスの手が優志の手に触れて,優志はどきりとする。横目でブライスの顔を伺うと,何?というように微笑んでくるから優志は更にドギマギする。そんなことを繰り返していると,列の前方から歓声が上がった。  近づいてみると,木々がなく開けた野原一面に色とりどりの高山植物の花畑が広がっていた。花はハーブのセージのように茎に穂が付いている形状が多く,赤,紫,黄色,白,水色と咲き乱れていた。その光景にブライスも雄志もしばらくは言葉もなく見入っていた。  花畑の上には白い頂とキラキラ光る氷河をくっきり見せているレーニア山。 「本当にパラダイスみたいだな…」  優志が独りごちた。ブライスは静かに頷き,視線を景色から優志に向け直した。サングラスには,美しい景色に見入る凛とした優志の姿が映っていた。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加