第4章 約束

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 車に戻った2人は,アセナが用意してくれたサンドイッチとコーヒーで昼を済ませた。前日に彼女が宣言したとおり,具の肉が絶妙に味付けされていたので,優志はがっついてしまった。ブライスが笑うと, 「だって,君のお母さんのサンドイッチ,きっとこれからずっと食べられない」 そう優志が返したので,ブライスは思わず食べかけの自分の分を渡そうとして,さすがにそれは優志が断った。 食後にインフォメーション・センターを見て回り,優志がお土産を買い求め,車で山を下り始めたのは1時半を回った頃だった。 「素晴らしいところだね。いつか頂上に登ってみたいな」 「…残念だけど,訓練された登山家でも毎年何人か命を落としているんだ…」 「えっ,そんなに難しい山なんだ…」  優志は後ろに流れていく美しくも厳しい山を振り返って見収めた。  来た道をあとは戻るだけだった。先ほどのトレイルのことをあれこれと話し終わり,ふと優志は心に引っかかっていたことをブライスに尋ねてみた。 「ブライス,昨日ジェニファーと何があったの?」 「ああ,…ジェニファーに話があるって言われて家の中についていったら,彼女の部屋に引っ張り込まれたんだ。…何となく気づいてはいたけど,そのとき付き合って欲しいと迫られてさ。  紳士的に断ったつもりなんだけど,彼女が抱きついてきて,…ちょっと言いにくいんだけど…その…」  ブライスが言いよどんだ。 「…ブライスにキスしようとしたんだね?」 「…ああ。それでちょっと突き飛ばしてしまって…」  優志はその場面が目に浮かぶようだった。ジェニファーはきっと,拒絶されたことを屈辱と感じて,ブライスがゲイだと言い放つことでプライドを保ったのだ。 「でも,災い転じて福となす,っていうやつかな。お陰で優志が僕の所に転がり込んできたから,彼女には感謝してる」  ブライスがにやりとした。
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