第4章 約束

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ブライスがひとりでフロントに支払いに行っている間,優志は車から降りないように言われた。男ふたりだから気を遣ったのだろう。時間が中途半端だから停まっている車は他にはなかった。屋根の上から東の方向にレーニア山が僅かに見えていい眺めだった。  トクン,トクン,トクン…。優志の心音が落ち着かなくなってきた。 ―どうしよう,どうしたらいいんだ,俺? これからブライスと…する…んだよな?男ふたりで,する,って…どうするんだ?  何をどう考えたらいいのか,全く分からなかった。それまで考えたことがない領域だった。夜中にブライスの部屋に忍び込んだ時それらしい雰囲気にはなったけれど,優志にはっきりとしたビジョンがあった訳ではなかった。 何の考えも浮かばないのに,甘い微笑みを浮かべたブライスが戻ってきてしまった。優志の心臓は今や,ドクン,ドクンと猛烈な勢いで動いていた。    ブライスは運転席に戻るとユウシのこめかみに軽くキスをして,右端の部屋の前に車を寄せ直した。  ブライスが部屋の鍵を開け,ユウシを先に部屋に入れた。中は12畳程度の広さで,キングサイズのダブルベッドとソファ,テレビ,冷蔵庫,それに観葉植物がおいてあり,それなりに清潔感があった。 ブライスも部屋に入ると後ろ手にドアの鍵をかけ,すぐに優志を抱き寄せて唇を近づけてきた。 唇を合わせては離し,また優しく押しつける…。何度か繰り返されるうちに優志の心臓の爆音は穏やかになってきた。  その代わり,胸の疼きがだんだんと奥深くから体表に浮上してくるのが分かった。優志はこらえきれず,身体をブライスに強く押しつけ背中に両手を回した。ブライスが片手を優志の腰に回し,もう一方を優志の髪の中に差し込んで自分の方に更に引き寄せた。  身体を密着させたのを合図に,ふたりは唇を開きその裏側をぴったりと合わせて強く吸い合った。それから舌を絡ませ合い,ふたりの口中行ったり来たりを繰り返した。  唇と唇の裏側,そして舌の柔らかな感触を味わううちに優志の意識はふわふわとして,ただもう激しくブライスを求めるだけだった。
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