第1章 出逢い

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「…機械も人間も,お互いに諦めなければ何とかなると思うんだけど。俺は,諦めたくない。甘いかな,俺…」  黙っているのが苦しくて,優志は小さく言った。まるで囁くような声になった。頭の中にはハヤブサと開発したチームとの交信が7年にも渡ったという事実があった。 ブライスがゆっくりと優志の方を振り向いた。目がしっかりと優志を捕らえそこから感情が溢れていた。 「君には驚かされっぱなしだな。諦めない…か」  ブライスが反応したので優志はホッとした。ブライスは優志から視線を外し,優志のほんのちょっと先を見て口を開いた。意を決した,というような雰囲気を感じて,自然と優志は顔を強張らせた。 「ユウシ,俺のミドルネームはハニと言うんだ。エジプトの昔のサッカー選手の名前をもらったそうだ。母が好きでね」  ブライスは少し笑った。 「僕の母がエジプト人なんだ」 「ああ,そうなんだ。そんな歴史ある国に関係があるなんてすごいや!」    優志は感じたままを素直に言葉にした。 「それでエジプトにはよく行くの?」 「小さな頃に一度きり。ピラミッドを見たことくらいしか覚えていないけど」 「すごい!俺も機会があれば行ってみたい。あ,それでなのかな… 貴方の目の色,不思議な色だって思っていたんだ。グレーだけど薄茶に見えるときもあれば空色に見えるときもあって…」 「それは母がエジプト人だと言うことと関係ないと思う。IDには目の色がグレーだって書くけど,俺の虹彩には数色混じってるかな」  優志は,話題の内容が自分でも理解できるものだったから,肩から力が抜けたように感じた。それからブライスの虹彩のことが気になって,すいっと顔を彼に近づけた。ブライスはふいのことに目を大きく見開いた。日が傾いていたから,優志は目を凝らして見た。よく見ると,いくつかの色の異なる線が瞳孔から外側に向かって走っているのが見てとれた。 「グレーに薄茶,翠,…青もある。右と左では,色の配分が違うようだ。綺麗なもんだな…」 そう言って優志は顔を元に引き戻した。ブライスは,優志が前を向いた時に彼に悟られないように,鼻からゆっくりと息を押し出した。目を見られている間,息を止めていたのだ。 炭酸水を飲んだような感覚がブライスの胸の中で弾けた。その感覚が生まれたことを,彼は至極当然のように納得して受け止めた。  
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