第4章 約束

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「…1年半前に別れた彼は,同時期に複数の男と関係を持つ人だった。彼自身そのことの危険性は理解していて,性行為をするときには必ずゴムを使うと言っていた。俺も彼とするときは必ずゴムを使ってた,初めて彼とした時を除いて…」  ブライスの包み隠さない打ち明け話に,優志はこれが同性と関係を持つことなのかと,現実の重さをひしひしと感じた。 「…俺,その人と付き合っていたときからHIV検査を定期的に受けていた。…別れてから3ヶ月後と,念のために1ヶ月前にシアトルに戻ってきたときにも受けた。…今までずっと陰性だ」  優志は,小さく安堵の息を漏らした。ブライスは優志の肩に額を押しつけた。 それからブライスは顔を上げ,身体を優志から離した。そして優志を真正面から見つめた。両眼は熱があるこのように赤みを帯びて潤んでいた。 「…これが俺だ。ゲイだとばれそうになればボーフレンドと別れ,相手の恋愛の価値観を理解できずに別れたりするような…」 「…大丈夫だよ,ブライス。君の恋愛は君一人の問題じゃなくて,相手や周囲の問題もあったんだよ。それに,君が恋愛のエキスパートじゃなかったから,俺と出会えた。 俺なんか,去年初めてできた彼女に,2歳年上ですごく積極的な人だったんだけど,一年近くいいようにあしらわれて,で,この春医学部のヤツに乗り換えられた…。マヌケだよな…」  苦笑いした優志を,ブライスがまた優しく抱きしめた。 「…俺たち,これまでの恋愛がうまくいかなくて良かったんだな。お互いに出会うためにそういう苦しい経験を経てきたって訳だ…。 ユウシ,とても愛してる。」 そう言いながら,再び唇を合わせた。優志の唇はすぐに開いて,俺も,とブライスの口中に囁いた。それからお互いの舌を絡ませて深いキスを交わした。  ブライスは唇を少しずつずらし,優志の左頬をちろちろと舌先で湿らせながら進み,優志の左耳に到達した。 「愛してる,ユウシ。始めから,ありのままの俺を見てくれてた。俺がどんな風に君を愛するのか,よく見て,感じて…」
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