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「…2年も待ってくれるの? ニュージャージーじゃなくシアトルでいいの? …俺でいいの?」
「答えは全部Yes だよ,優志。それから最後の質問は愚問。何ならここで‘It had to be you’ を歌ってもいいよ」
にっこり笑って答えてくれる。優志の顔を覆っていた,最高レベルの心配マスクの下から笑顔が戻ってきた。
大学の寮へ向かう車の中で,ブライスが鼻歌を歌うのを優志は珍しそうに聴いていた。
― It has to be you...
It has to be you...
さびの部分を声にして歌っているけれど,タイトルとちょっと違うんじゃないかと思った。低い声がセクシーでとても上手い。一緒に暮らしたら,こんなふうにブライスの鼻歌を毎日聴けるのかと思うと,胸の鼓動が早くなった。
大学の寮の手前のブロックで車が止まった時,8時を少し過ぎていた。辺りは薄暗く,離れたところにある街灯でお互いの顔が見える程度だった。
「さて,初デート終了だ。どうだった,優志?気に入ってくれたなら嬉しいんだけど…」
「すごく,良かった。ドライブにハイキング,アクセサリーのオーダー,夕食,パーフェクトだった…。忘れられないよ…」
―もちろん,初体験も。
ぽそぽそと呟くように答えた。思い出すと恥ずかしい気持ちが勝って優志は俯いた。それに気づいて,ブライスは優志
の後頭部に手を伸ばして優しく髪の毛を撫でた。
恋人同士なんだから甘えちゃえ,とばかりに優志はブライスの右肩に頭を寄せた。満足げな溜息が優志の髪の毛を揺らした。
「明日から講座最終週だな。頑張って,優志…」
「あぁ,うん。また分からないことがあったら What’s Up で訊いてもいいかな」
「もちろん。むしろ,優志のメッセージを待ってるよ」
「…あの,俺,会いたいな,ブライスに…毎…日…。ははっ…だめかな?」
沈黙があった。
「…本気?優志…,俺,すごく嬉しいんだけど…」
優志は頭を上げて,半信半疑で声が掠れてる恋人を見た。
「本気っ。俺,100%本気。ていうか,会えないと講座にも集中できない…」
「はぁ…優志,俺はどんどん君に夢中になっていくよ。
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