285人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだな,毎晩俺が寮に来る。それから一緒に過ごそう。門限は10時だね。必ず門限には帰すよ。いいかな?」
「あぁ,8時に来て,ブライス。それまでに講座の勉強を終わらせておくから」
返事の代わりに,優志は熱くて湿潤なキスを唇に受けた。愛情と思い遣りに溢れた,長い長いキスだった。
息を整えてから,ふたりは入り口に向かった。優志は幸せそうな笑顔をブライスに向けて建物の中に消えた。
-俺の恋人…
ブライスは満たされた想いと,しばしの別れの切なさにさえ甘さを見いだして,それらを噛みしめながら車に戻った。
夏季講座の最後の週となった。優志たちは専門分野の対象が似ているメンバーでグループを組んだ。公開されている工学資料を選び,その機能を検証する。そこまでは先週とあまり変わらない。最終週は改善策を自分たちで提案することだった。コンピュータだけでまとめることができるグループもあるだろうが,途中工学演習室を使うグループも想定された。指導教官が4名に増えた。
優志は宇宙航空工学を専門とする学生と3人のグループを作った。あとは4,5人のグループだ。
最終日の金曜日にはプレゼンと諮問があるから,それまでに完成しなければならない。日程と付き合わせて資料のレベルを摺り合わせた。
教官のアドバイスを十分に取り入れつつ,他国の学生の意向を生かし,優志はゴールに辿り着く術を探っていた。
月曜日は改善対象の資料決定と,改善に使われそうな膨大な量の資料収集に追われた。その一方で優志はプレゼンのデザインをラフに作成し始めていた。一時も気の休まる時はなく,昼食も優志が学食から調達したベーグルサンドをかじりながら作業から離れることはなかった。
忙しかったが,苦にはならなかった。8時になったらブライスに会えると思うと,フル回転で作業することが快感だった。
夕食後のグループでのミーティングを終えると7時50分だった。シャワーを浴びたかったが時間がないので歯磨きだけして飛び出した。
「優志,どこに行くんだ?」
「…ああ,気分転換。ちょっと走ってくる!」
遼に訊かれたとき,まずいなと思った。彼に何も話していなかった。それまでもちょっとした時間にキャンパスの回りの歩道を走っていたから,きっとそれほど不審に思われないだろうと思い直した。
最初のコメントを投稿しよう!