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寮の外に出て左右を見ると,1ブロック離れた所にブライスの車が停めてあった。
「お待たせっ」
ブライスの顔を見ると嬉しくて自然に笑顔になる。助手席に乗り込んで,すぐにキスしようかと思ったが,まだ寮の近くにいることを考えて止めた。
「どうだった?今日の講座は」
車を動かしながらブライスが訊いてきたので,優志は一日の報告をした。
「…とても力がつく演習だと思うし,できるだけ完成度を高めたいんだ。あ~あ,でもすごい疲れた。休みなく取り組んだからね」
「優志の顔が生き生きしてるから,いい一日だったって分かるよ」
「ふふっ。ブライスは?どうしてたの」
大学の運動施設を背にして,湖を前にした駐車場にブライスは車を止めた。暗い湖の左手に小さな半島のようにローレルハーストがせり出していて,家々の明かりがポツポツ,水玉模様のように見えていた。
先週と変わらず,ブライスは新学期に向けて勉強を続け,午後から湖にボートを出して読書をして過ごした。夕方,公営プールに行って久しぶりに5000メートル泳いだという。
「すごいなぁ,5000かぁ。
ブライス,俺,ボートで湖に出たことがないんだ。ボートに乗ってみたいなぁ」
「これからか?」
「うん,無理かな?」
ブライスは近くにある公営のボート乗り場に車を移動させた。車から降りると,後部から両手一杯の古毛布を出して優志に持たせた。そして桟橋の一番近くに停めてあったボートに乗り込んで優志から毛布を受け取り,次に優志を受け取った。形ばかりの錠を外してオールを漕ぎ出すと,静かな湖にギコギコと規則正しい音が水面を這うように広がった。
5分ほど漕ぐと,ローレルハーストと大学が均等な距離に見えるようになった。ブライスはそこでオールをボートの中に入れた。すでに優志は古毛布を肩からかけていた。
「寒いか?」
「毛布のお陰で大丈夫。でもブライスが寒いよね…」
優志が腰を低くしたままブライスの方に近づいていった。ブライスは船底に敷いてある板の上に腰を落とし,優志を反転させて自分の脚の間に座らせた。優志から毛布をはいで,すっぽりと二人でかぶった。
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