第4章 約束

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 車から降りて歩く優志を見ていると切なくなる。入り口で,一度こちらを振り返り中に入っていく。多分笑顔だ。身体全体の動きから分かる。 ―1時間以上抱きしめていたけど,…足りない…。 『…粘り強く待つだけ,諦めないことが大事』…か。  優志は寝る前にも資料を読み込み,日中は講座のプロジェクトに没頭した。もともと集中力のある方だった。被災の経験から,やるべきことをやっておかないと何かあった時に後悔することになる,と身に染みていた。  夜の外出については,気分転換が必要だからジョギングに出かける,と遼には伝えた。時間になれば戻るし,遼自身自分の調べ物で頭がいっぱいで,優志の行動に注意を払う余裕はなさそうだった。  いつもの場所で車が待っている。二人で湖に行き,ボートで過ごす。星空や湖の周辺の灯りを見つめて話し込む。講座のプロジェクトの進み具合,ブライスの読んだ本のこと,将来の夢…時折空を衛星が横切るのが見えて,どこの国の何のための衛星だろうかと,子供のように推測を楽しんだ。  幸運なことにふたりとも視力が良かった。裸眼で流れ星を見ることもできた。  空と星とを眺めて,湖にふたりだけで漂っていると,広い宇宙空間に存在しているのが本当に自分たちふたりだけなんじゃないかと思える瞬間があった。 「ブライスとふたりなら,それでもいいかな,俺」 「…ん,そして俺がずっと優志を可愛がる…」  背中から優志を抱え込んでいるブライスは,優志のさわり心地を堪能する。首筋,胸の尖り,柔らかな腹,そして中心にある昂ぶり。  一度など,優志を刺激しすぎてしまい,ボートの上で果てさせてしまった。成り行きでそうなったようにブライスは説明したが,毛布の下から箱ティッシュが覗いたので,計画的犯行だと優志は結論づけた。 「そう思われてもしかたがないなぁ,優志は可愛いし。 耳に残ってる君の喘ぎ声とこの使用済みティッシュで,俺は家で一人でするよ」  そのあと優志がティッシュを取り戻そうと暴れたので,ボートは大きく揺れて転覆の危険にさらされた。   講座は最終日を迎えた。学生たちは前日までにプレゼンの資料をそろえ,発表をメンバーで分けて練習した。英語でここまで発表するために,木曜の夜はみな夜遅くまで練習した。優志もブライスとの逢瀬を9時で切り上げたほどだった。
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