第4章 約束

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翌日,午前中が学生のプレゼン発表に当てられた。指導してくれた教官4人と工学部の教授1人,計5人の指導者が試問することになった。 優志たちは,再生可能なロケットの改良について調べ,最もコストが抑えられそうな材料を用いた装置案をまとめた。外国人でしかも学部生だ,未熟さは否めないが,この場で考え得る最善策にまとめ上げたと自負していた。 会場を支配する発表前の不安と緊張,試問での混乱,協力そして収拾,終了の安堵の溜息。 全てのプレゼンと試問が終わった。その後,試問団からの講評と講座の修了式が続いた。この中からワシントン大の大学院に戻る学生が出ることを期待しているという内容だった。優志は自分がその一人となることを改めて心に誓った。 昼には工学部の小ホールで会食が設定されていた。講座の全課程を終えて,学生たちの達成感や安堵感,高揚感がその場の空気に濃く滲み出ていた。 学生同士の語らい,教官への感謝の言葉と彼らからのねぎらいの言葉。優志も話しかけられてたくさんの人と言葉を交わした。これまでの緊張続きの4週間を考えると,自分を解放してエネルギーを全て放出すべき時だと理解はしていた。 しかし,優志の心をその場に繋ぎ止めるのは不可能だった。それは全く違うところをさまよっていた。 会食を終えて学生達は寮に戻った。翌日早々に帰国する学生もいたし,もう2泊して日曜日に帰国する学生もいた。 「優志,今夜あのクラブに行く計画があるんだ。行けるのは10人くらいかな,お前,どうする?」 「あ,あぁ,俺,夕方…」 「犬の散歩か?」 「…ああ」 「ま,じゃ,遅れて来るってことでいいかな」 「ああ,そうしておいて…」 「お前,本当に犬好きだな,散歩は明日もできるのにな」  ホームステイ組は,最後の夜をステイ先で過ごすことになっていた。優志と遼はハーレー家で夕食にカレーを作って振る舞うことにしていた。  優志は寮からそっと出て,いつもの場所に向かった。向かいながらWhat’s Up でブライスに連絡を取った。ほどなく車が現れた。
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