第4章 約束

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「いい顔してるな,優志。いいプレゼンができた?」 「ああ,今の自分たちのベストだったと思う。良かったよ。4日であんだけのことができたっていうのが奇跡みたいだ」   「そう。いい経験だったんだな」 「…ん」  ブライスとの会話も,この滞在に関わる全てが終焉に向かっていることを優志に自覚させて,寂しさがこみ上げてきた。  ハーレー家にはあらかじめ散歩のことを連絡していたので,ボウはすでに散歩の用意ができていた。二人と一匹はゆっくりとしたジョギングのペースで坂道を下りた。  坂下には,ワシントン湖がいつもと同じように穏やかに佇んでいる。太陽の光の差し込む角度が,ほんの少しだけ変わったような気がする。優志は,4週間前とは季節が変わりつつあることを感じ取った。  公園でボウと一緒に走り回り,ふたりも十分汗をかいた。30分ほどでボウは満足げに座り,帰宅を促すようなそぶりを見せた。 「いい奴だな,ボウ。俺ももうくたくただ。今週は身体を動かしてなかったから…」 「毎日泳いでる俺でもボウには負けるよ」  ウォン!と,意味が分かっているのかボウが嬉しそうに応えた。  帰りはのんびり歩いた。あのブルーベリーの茂みで自然とふたりの足が止まった。一目でブルーベリーの盛りが過ぎたことが分かった。何も言わず顔を見合わせて,それでも状態のいいものが残っていないか探し始めた。  選んだブルーベリーを持ち寄って見ると,ふたりとも同じ数だけ摘んでいたのが可笑しくて,笑い声が漏れた。そして何も言わなくも,当然の流れのようにブライスが優志の口元に一粒差し出した。 「実りのある人生」 ブライスの指が開いた優志の唇の間に果実を優しく押し込んだ。噛みしめてから優志もブライスに同じ事をした。 「知性」「信頼」「思いやり」と,お互いに4粒ずつ与え合って,最後にキスを交わした。 「ブライス,これ,なんか結婚式みたいだ」  ブライスは目を剥いた。そんな雰囲気を醸し出せたらと密かにもくろんでいたのに,あっさりと言葉にした優志に狼狽えた。爆弾投下だ,もう引き受けるしかない。 「じゃあ,そうしよう。…このアイテムで式は完結だな」  優志と自分の首回りの汗をタオルで拭き取ると,背中に背負っていたバッグから細長い箱を二つ取り出した。一つを優志に渡し,ふたりで開けた。オーダーしていたネックレスだった。
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