第4章 約束

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「あれ,これ,明日できる予定だったんじゃ…」 「しつこくお願いして早く仕上げてもらった。裏も見て」  「i」の文字をデザインしたトップの裏にはBriceと刻まれていた。そのネックレスを優志に掛ける。 「愛してる,優志」  優しく唇を合わせる。「心」という文字のトップ裏には Yushi と刻んであった。優志が顔を近づけ,両手をブライスの首の後ろに回してネックレスの留め金を掛けようとしたが,手こずってあたふたする。ようよく掛けてほっと息をついた。 「…あ,愛…してる,ブライス」  笑顔で待っているブライスに優志が唇を合わせる。と,合わせるだけではなくブライスが荒々しく優志の口中に分け入り,吸い上げ,激しく蹂躙した。 「…んんっ…んっ,はぁっ!ブライスっ! これ結婚式のキスと違うって!」 「ごめん,我慢できなくて…」 くくっと笑うブライスからは全く悪いとは思ってないのが伝わってきて,優志は憮然とした。 ブライスはボウを見やってウィンクした。 「ボウの立ち会いのもと,式は滞りなく執り行われました」 ブライスが厳かに宣言した。 ボウをハーレー家に戻し,優志はブライスの家に行った。シャワーを使って服を借りてさっぱりとした。 「夕食にしようか」 「…俺,このあと,打ち上げに誘われていたんだった…」 「…そう」  特に何の感情も浮かべず,ブライスが優志に視線を向けた。そのあと言葉は出てこなかった。 ―ああ,ブライスに決めさせるんじゃなくて,自分で決めなくちゃ…。 「…夕食をごちそうになるよ,夜までブライスと過ごしたいし。遼には連絡を入れる」  ブライスの表情がほころんだ。 用意された夕食は,アセナの作り置きのローストされた肉と煮込んだ野菜で,よりエジプトらしい料理法だった。奥行きのある味わいで,空腹の優志でもゆっくりと噛みしめたくなる料理だった。よく冷えたビールもおいしくて,2杯目をもらった。 「あんまり飲み過ぎないで,優志…」 「…分かった。なぁ,アセナは今日いないの?」 「…今日は,エジプト人の友だちのところで過ごしている。11時までには帰るそうだ。多分,俺たちに気を遣ってるんだ。今日は優志を連れてくるって,月曜日に言っておいたから」  ブライスは淡々と語っているのに,優志は顔が赤らむ自分が恥ずかしかった。
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