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閉じた瞼の裏に浮かんだブライスの瞳が,優志を見つめている。だんだん近づいてきて夕陽色の弾ける様が激しくなった。眩しい,と思った瞬間,瞼の裏全体に閃光が満ちた。ブライスに強く舌を吸われていたらしい。そのままされるがままに任せていた。
優志の瞼の裏の閃光がだんだん収まってきて,ブライスの姿が浮かんできた。眩しい太陽の下,白いウエアでテニスをしてる。それからウィンドサーフィンをしている姿に変わった。こちらを振り向いて笑っている。レーニア山を背にしたブライス,ボウと走るブライス,大学の寮でテキストを説明するブライス…。
やがてブライスの部屋のぼんやりした灯りの下で,机に本を何冊も広げて調べ物をするブライスに変わった。こちらを全く振り向かない。優志は何だか心細くなって,ブライスの肩に手を掛けようとした。その途端,周りの様子が変わった。見たことのない研究室のような空間だった。
周りには大型コンピュータやモニターが何台も並んでいて,ブライスは中央の机で何かに没頭していた。
すぐに周りから何人かの学生が現れて,ブライスに声をかけ,同じように机に屈み,顔を寄せ,肩に手を回した。更に機械類や本や書類やらが雑然と重ねられた部屋の奥に連れて行こうとしていた。
哀しかった。
周りに何人もの人がいるのに,ブライスはまるで一人でいるように孤独だった。その孤独感が,全部優志に入り込んできたみたいだ。
―どうして隣に自分がいないんだ。
優志は前に進んで,ありったけの力を込めてブライスの肩を抱きしめた。
「…優志,優志? 大丈夫か?」
軽く酸欠に陥っていたらしい。優志は浅い呼吸を繰り返した。力の入らない上半身をブライスが抱き留めていた。足下でボウがくうぅん,とないて優志を見上げていた。まだ,夕陽は沈みきっていなかった。
「大丈夫だよ,ブライス。息するの,忘れてたみたいだ」
大きな安堵の溜息を吐いたブライスが眉毛の両端を下げた。
「…言わないつもりだったんだけど…
優志のことが心配だ…って言ったら気を悪くするか?」
「心配って…何で?…俺が酸欠起こすから?」
「…いや…優志がとても魅力的だから,日本に帰ったらたくさんアプローチされて…むぐっ」
優志がブライスの唇に手を当てて言葉を遮った。目が三白眼になっていた。
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