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音の発信源を見るとそこには、放心状態で呆気に取られている吉良雅の姿があった。
「………いるの」
おもむろに何かをつぶやきながらこちらに向かってくる吉良
「吉良様?」
「い、一体どうしたんだ、吉良?」
いつもとどこか様子の違う吉良に困惑するクラスメート達
「その人はどこにいるのか、教えてくれ」
転校生の話をしていた彼の肩を掴み前後に激しく揺さぶりながらいつもの飄々とした表情ではなく、少し焦った表情を浮かべながら尋ねる吉良に押され、彼はおずおずと答えた。
「2年のどっかの教室にいると思う、クラスまでは流石にしらないけど…」
「そうか…ありがとう!ええっと…加藤君!」
そう言うと吉良は風のように去っていった。
「俺、河内だよ…」
だから、きっと河内の声は彼には届いてないだろう。そんな彼を見兼ねたクラスメートが河内の肩に手を置いた。
「大丈夫だ…あいつはきっと自分の名前しか頭に無いから!」
河内は、グーサインして眩しい笑顔を見せる彼の親指を逆に折り曲げた。
「それにしても吉良様のあんな顔初めて見たな……」
「そうだな…あいつは自分にしか興味無いから……あれ?」
「どうかしたの?さては吉良様に話し掛けられて感動のあまりおかしくなっちゃたの?」
「ちっげーよ!!よくよく考えれば、あいつの顔真正面から見るの初めてだったなと思って……」
「羨ましいすぎるんだけどぉ!!河内の癖に」
「そっちじゃねぇよ!!つまり……あの時吉良は鏡持ってなかったよな?」
その瞬間クラスの中には戦慄がはしった。
ありえない。あの吉良雅が鏡を持っていな
いなんて
その後、1人の男子生徒が吉良の机に無造作に置かれている鏡の存在に気が付いて、全員が悲鳴を上げるまでにはそう時間はかからなかった。
「あの吉良様がっ…吉良様がっ…鏡を置き去りにしてしまうほどの存在とでもいうの…?」
そして、吉良をこうまでさせる名も分からない転校生に恐怖した。
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