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* * *
ここからは後日談となる。
あの後、流花は無事に目を覚ました。
家にいたはずなのに、気づいたら軽音サークルの部室にあるソファーにいたものだから、彼女もさぞ驚いただろう。
しかし、こんな摩訶不思議な事態は彼女もここ一年頻繁に続いているのでいい加減慣れたのか、伊佐田の出来事はすんなりと受け入れてくれた。
「また、助けてもらっちゃったね」
そう言って流花は瞑に向かって微笑む。
その笑顔に瞑も照れ臭そうに頬を掻くものだから、その場にいた悟だけでなく、旭までもがニヤニヤとしていた。
これで、全て解決した。
それでも統吾の表情は曇っていた。
屋上に続く階段の上で寝ている伊佐田にはブランケットも持っていった。
流花の目も覚ましたし、体調も悪くなさそう。
それなのに、どうもすっきりしなかった。
結局、そのあとすぐに解散となり、各々自宅へと戻っていった。
しかし、その日の夜のうちに統吾は柄沢家にやってきた。
「どうした急に」
アポイントなしで家に来るのはいつものことなので慣れていたが、数時間前まで一緒にいたのにもかかわらずわざわざ家までやってきた統吾に悟は首を傾げる。
「ちょっとね……おじさんに用があるんだ」
「親父に?」
「うん。いる?」
「あ、ああ……まあ、入れよ」
統吾をい家に招く悟はそのままリビングへと案内する。
リビングに入ると袈裟から作務衣に着替えた一世が食卓で晩酌をしていた。
「おや、統吾君。こんばんは。こんな時間にどうかしました?」
「遅い時間にすいません。どうしても聞いてもほしいことがありまして」
統吾の眼差しはいつにも増して真剣だった。
その空気感を察した一世も、飲んでいたお猪口をゆっくりと下ろす。
「昼間の出来事ですか?」
「あ、はい……さとりんと瞑ちゃんから聞いたんですか?」
「触りだけですけどね。どうやら大変だったようで……」
話をしている二人の横で悟が台所で茶を淹れている。
瞑はというと、その会話が聞こえたのか観ていたテレビを消し、
ソファーから身を乗り出して振り返り、彼らの会話を聞いていた。
悟が統吾の横に淹れた茶を置く。
その立つ湯気を見つめながら、統吾は静かに口を開いた。
「俺……わからないんです。伊佐田さんが、本当に幽霊を視えていたのかどうか」
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