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この光の粒子は人の魂が具現化したもの。
悟や統吾のように霊媒体質の者しか可視することができない。
「こういう光景を見るとさ……たまに、幽霊が視えてよかったなって思うんだ」
統吾は優しげな表情で空を見上げる。
人の行く末を見つめる統吾の様子に、悟はフッと小さく笑った。
「……そうかもな」
そう呟いて悟も光り輝く青空を見上げる。
「なんか、いいことありそうだね」
統吾は笑みをこぼしながら頭の上で腕を組む。
それは悟も同感で、統吾の隣で深く頷いた。
◆ ◆ ◆
瞑は窓から射し込む強い光で目が覚めた。
重くなった瞼を擦りながらむくっとベッドから起き上がる。
寝惚け眼で窓を見ると、昨日確かに閉めたはずのカーテンが開いていた。
「もしや」と思いながらもベッドの脇に置いたスマホに手を伸ばす。
ディスプレイに映った時刻は十一時。その時刻に瞑の思考が停止する。
「やっべ! 寝過ぎた!」
瞑は掛布団をふっ飛ばし、寝巻のまま部屋を出た。
慌ててリビングに行くが、そこには誰もいなかった。
一世は仕事だとして、悟の姿がない。
代わりに食卓の上には瞑の分の朝食がラップにかけられて置いてあった。
その隣には置き手紙もある。
瞑はその置き手紙を手に取った。
そこには悟の字でこう書いてある。
『花買ってくる。勝手に飯食ってろ』
悟が自分を起こさず、こうして置き手紙を残すことなんて初めてのことだ。
しかし、この置き手紙こそが悟が自分の部屋に入り、部屋のカーテンを開けたということを示していた。
瞑を起こさなかったのは彼なりの優しさであるが、泣き顔を見られたことに瞑は恥ずかしさを感じていた。
「これは……雪でも降るのかな」
ばつの悪そうに頭を?きながら、瞑は彼が作った朝食を電子レンジで温めた。
レンジを待つ間、瞑はぼんやりとしながら窓の外を眺めた。
雲間から光が射し込む。
窓が濡れているので、直前まで雨が降っていたことに気づく。
光に誘われるように瞑も窓に近づく。
そして空を見上げると見事な虹がかかっていた。
魂が具現化した光の粒子の輝きは瞑にも見えていた。
虹の光と重なりあって光の粒子が太陽に反射する。
虹と光の粒子の共演による美しさに瞑も思わず感嘆の息をこぼした。
悟と統吾、そして瞑は光が視えなくなるまでその美しい景色を眺めていた。
これから始まる出来事の、ほんの少しの休息だった。
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