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「お、お姉さん!?」
倒れる伊佐田に瞑は慌てて駆け寄る。
「ちょっと! しっかりして!」
何度も体を揺すってみるが伊佐田は目を閉じたまま動かない。
ただ、その表情はどこか安らかで、「スースー」と可愛らしい寝息も聞こえてきた。
「なんだよ……寝てるだけか」
何事もなさそうで瞑もやれやれと息をつく。
しかし、彼女も憑かれていたのだから肉体的にも精神的にも堪えたのだろう。
霊圧から解放されて眠りについてしまうのは瞑も仕方がないと思っていた。
幸い、悪霊に憑かれても伊佐田自身のダメージはほぼなかった。
あれだけ黒い靄が出ていたが、それも伊佐田の作った五芒星のせいで一時的に霊力は高まっていただけ。
あの男の霊自体は強くはなかった。
それに、伊佐田が作った五芒星も、効力はあったとはいえ素人の作り。
先程使った言霊によって局部的に霊力をあげた
瞑に相殺されてしまった。
だからあの一瞬で彼女の描いた五芒星が消えたのだ。
そのおかげで男の霊力も元どおり。
あとは光の矢が当たれば一撃必殺。
しばらくは疲労感は続くかもしれないが跡形もなく祓えたから伊佐田の身も特に問題は見受けられないはずだ。
寝てしまった彼女をどうしようかと瞑が考えていると、横たわっていた統吾がむくっと起き上がった。
「痛って〜……」
統吾は腕や首をぐるぐる回しながら軽くストレッチをしている。
つい先程まであれほど苦しんでいたのに、そんなこともまるでなかったかのように元に戻っている。
「もう大丈夫なの?」
「うん。瞑ちゃんがやっつけてくれたからね。もう悪い気はないよ」
「ありがとう」と微笑んだ統吾だが、その笑顔もすぐになくなり、横たわっている伊佐田に目を向ける。
「……このお姉さん、どうすればいい?」
助けを求める瞑は困ったように眉尻を下げている。
訝しげな表情を浮かべる統吾だが、少し考えて静かに彼女の隣で跪いた。
「……ここは寒いからひとまず中に入れてあげよう。それからは、ドアのところにでも座らせておこう」
「放っておいていいの?」
「うん……多分、彼女にとってはこれ以上俺たちに借りを作ることのほうが屈辱的だろうからさ。あとは、彼女自身に決めてもらおう。瞑ちゃんも手伝ってくれる?」
統吾に請われ、瞑は首を縦に振る。
統吾が伊佐田の腕を自分の肩に回したので、瞑も見よう見まねで彼女の腕を取った。
それから「いっせーの、で」と声を合わせて彼女を持ち上げる。
「……帰ろう。みんなのところに」
小さく呟いた統吾に応えるように瞑も頷く。
だが、ふと統吾を見ると何か考え込んだような深刻な顔をしていた。
全ては解決した。
そのはずなのに、そんな複雑そうな彼の表情を見ていると、瞑も不穏を感じていた。
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