開かれたフィールド

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* * * 伊佐田は夢を見ていた。 夢の中の彼女はまだ小学生だった。 いつも通り、昔の友人と小学校の廊下を歩く。 和気藹々と、他愛ない話をしていると、自然と笑みがこぼれ落ちる。 そんな伊佐田たちを見つめるような視線を感じたので、彼女はふと顔を上げた。 廊下の先には、赤いワンピースを着た少女が立っていた。 おかっぱ頭の少女は無表情で彼女たちのことを眺めていた。 青白く見えるくらい白い肌の少女で、伊佐田は彼女のことを初めて見かけた気がしていた。 『ねえ、あの子誰?』 思わず友人に問いかけるが、友人は『何が?』と首を傾げるだけだ。 けれども正面にはあの少女しかいない。 こんなに見通しがいいのに、少女のことが見えないはずがない。 『ほら、あの子だよ』 指をさしても友人は少女のことがわかっていかいようだ。 『変な巴ちゃん』 そうやって友人には笑われた。 まるで、見えているのがおかしいと言うように。 ――ああ、そういえばあの頃もそうだったな。 昔の自分を彼女は思い出す。 思えば、少女のことを見たのはあれが最後だった。 それでも、自分が見た彼女のことを証明したくて、彼女はずつと唱え続けていた。 自分は変ではない。 自分は嘘ついてない。 そう思っているうちにあの少女が「この世に生きていない者」と捉えるようになりわ彼女は片っ端からオカルトのことを調べるようになった。 ――私は間違ってなんかない。 そんな自分のプライドをかけて追い求めたのが降霊術だった。 たった一回。 たった一回だとしても、それが彼女にとっての真実って、いつの間にかそれが彼女の理想となっていた。 それなのにーー……。 目が覚めると、なぜか階段に座り込んで、壁によりかかっていた。 確かに自分は屋上にいた。 そこで記憶は途絶えているが、いつの間にこんなところに移動しているし、統吾も瞑もいなくなっているので驚いた。 ハッと見ると自分の膝にブランケットが敷かれていた。 けれども、誰が置いたのかはわからない。 ふと時刻を確認すると夕方になっていた。 気づけば、自分が眠りについてから一時間以上経っている。 おそらく、こんな時間ならサークル棟にはもう誰もいないだろう。 もう、帰ろう。 寒さの他にも疲労を感じていた彼女は、徐に起き上がる。 その時、ひらりと紙が落ちた。 どうやらブランケットについていたようだ。 紙を拾い上げると、そこにはこう書かれていた。 『このブランケット伊佐田さんにあげます。 ボロいけど、使ってください。高爪』 脳裏に橙色の頭をした彼の姿が思い浮かぶ。 あれだけ貶して、あれだけ迷惑をかけて。 それなのに、彼の優しさに触れてしまい、途端に彼女の目頭が熱くなった。 「……借りは返さないわよ」 そう呟きながら、彼女はブランケットに顔を埋めた。 小さくすすり泣く彼女の声は、静まり返る廊下に少しだけ響いていた。
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