開かれたフィールド

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* * * 翌日の放課後、木綿陸高校にて。 ここに、今回珍しく何も関わらなかった少年が一人いた。 千倉燿だ。 「へー……そんな面倒臭いことがねえ……」 流花と瞑の身にあったことを聞いた燿は深いため息をついた。 といっても、自分だけ仲間外れにされたなんて彼は微塵も思っていない。 むしろ、自分も介入しなくてよかったとすら思っていた。 伊佐田のような人物は彼にとってこの上なくうざったくて、関わりたくないからだ。 「よりによって第一志望のオープンキャンパスでそんな厄介な奴に絡まれたなんて、藤崎も災難だったな」 「う、うん……でも、大学の雰囲気は掴めたし、全体的に学生の雰囲気もいいから、行ってよかったと思ってるよ」 「ふーん……まあ、悟さんたちがいるから却って安心か」 納得したように燿は頷く。 その隣で瞑が「それほどでも」と照れながら頭を掻く。 「お前じゃねえよ」 そうツッコミを入れるのも、最早彼らのテンプレートだ。 「ところで、流花はもう体調いいの?」 瞑に尋ねられ、流花はコクリと首を縦に振る。 「瞑君(、、)のおかげで、すっかり良くなったよ」 「そっか。それはよかった……え?」 流花の言葉に瞑も、横にいた燿でさえも驚いて目を瞠った。 とても自然な感じで言っていたが、確かに彼女は今―― 「……名前で呼んでくれた?」 思わず訊く瞑に流花は頬を赤らめながらもフフッと笑う。 「嫌だった?」 恥ずかしそうに言う流花に、瞑はフルフルと首を横に振る。 「全然……むしろ、めっちゃ嬉しい」 彼女に返す瞑の声はうわずっていた。 けれどもこれは動揺でも緊張でもない。 心の底から喜びを感じているのだ。 ――ああ、やっと。 もう一歩踏み出せたような気がする。 そう感じると彼の中にあった靄がスーッと晴れたような気がした。 「……ありがと」 礼を言う瞑に、流花は頬を綻ばせる。 そんな彼らの様子を、燿は「やれやれ」と呆れたように息をつく。 「本当……相変わらず一年経たなきゃ下の名前で呼べないのな」 燿に図星を突かれ、流花は引き攣った笑みを浮かべる。 「相変わらず」と言ったのは、現に燿もそうだったからだ。 「燿も俺こと名前で呼んでいいんだよ?」 ニンマリと笑いながら、瞑は燿の肩に腕を回す。 「呼ばねえよ、ったく……すぐに調子に乗りやがって……」 「えー、俺と燿の仲じゃんかー」 「どんな仲だよ、馴れ馴れしい」 そう訝しげな表情をする燿だが、肩を組まれた瞑の腕は払おうとはしなかった。 どうやらこの一年で彼もまた、瞑のペースに飲まれてしまったらしい。 「……まあ、考えておくよ」 そっぽ向きながらもそう返した燿に瞑は意外そうにしていたが、やがて嬉しそうに目を細めた。 ――こうして今日も、日常が少しずつ変わっていく。 これはそんな彼らの、ひと時で…… 彼らの非日常的な日常は、これからも変わりなく続いていく。
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