折り鶴、空を飛ぶ

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「ーーおい」 そんな2人の会話を悟が遮った。 悟は親指で後方を指し、息をつく。 「…来たぞ、警察」 彼が指差す森林の隙間からは点滅する赤いランプと黒白の車がちらりと見えた。 「おや、もう来てしまいましたか」 一世は涼しげな表情をし、腕を組む。 「私はこちらで待ってますから、悟はお迎えに行っていただけますか?」 その間、瞑と燿君は車で待っていてください。 一世はそう言うと息子たちは頷き、車を停めた麓へと足を向けた。 だが、燿の顔つきは変わず強張っており、俯く彼の背中には憂いを感じる。 「燿君」 そんな一世は声をかけた。 「息子のこと、よろしくお願いしますね」 その目を細めた優しい笑顔はとても瞑によく似ていて、燿は目をパチクリさせながら最後に会釈した。 ーー車に戻るとすでに警察がパトカーから降ており、何やら話し込んでいた。 悟達の姿をみると彼らは警察帽子を外し、その場で礼をする。 警察と話す悟を他所に瞑と燿は車の鍵を開け、後部座席へと座った。 燿は頬杖をついて窓から再び山へと向かう彼らの背中を見送る。 ただ、その眼は虚ろで魂が抜けたように呆然としていた。 「…大丈夫?」 いつも落ち着いている燿が消沈しているのを見て、瞑は心配そうに顔を覗かせる。 そんな瞑の声に燿は訝しげな表情を浮かべ、瞑を見つめ、そして問いただす。 「…お前は、いつもあんな生活をしているのか?」 その突然の問いに瞑はあっけらかんとしながらも肯定した。 だが瞑もまた彼から視線をずらし、吃った声で燿に尋ねた。 「燿は…昨日のこと何処まで覚えてる?」 少し黙り、燿は答える。 「お前が来て、俺を射るまで」 「あはは…なんだ、燿も俺のこと全部知ってるんじゃん」 気遣って損したよ。 そう言いながらも瞑の笑顔は力ない。 「お互い変な体質だよなー」 そんな空気を壊すように瞑は陽気なトーンで口角を上げ、まるで仲間ができたかのように背中を叩くと燿は「お前と一緒にするな」とうんざりした表情を浮かべた。 そんな瞑をちらりと横目で見ると屈託のない弾けるような笑顔の彼と目があった。 「これからもよろしくね、燿!」 そんな彼の嬉しそうな顔を見ていると、何故だか気張っていた自分が馬鹿らしくなり、彼もフッと静かに顔を綻んだ。 きっかけは、絹子川連続殺傷事件。 この日を境に、日常が変わっていくことを彼らはまだ知らない。
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