2030年

4/5
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「……靭帯断裂だな」 難しい顔をして話す医者に、正人はなんだか別の世界にいるような気がした。 「断…裂?」 「うん。一本や二本じゃないね。半分くらい切れていると思われる」 「それは……」 「一応しっかり固定して安静にしていれば普段の生活はできるようにはなると思う。でも運動はだめだな」 「え?」何言ってんだよ、そんな大事なこと簡単に言うのかよ。 「でも手術と言う手もある」 「治るんですか?」 「治る」、とはちょっと違うかな。切れた靭帯をつなげる。けれど、再生されるわけではないからね。元通り、とは違う。それでも運動はできるようにはなるよ。しっかりと足首を鍛える必要があるけれど」 正人はそれを聞いて胸を撫で下ろした。手術は怖いけれど、それなら問題無しだ。 「どれくらいで運動できるようになりますか?」 「最低でも3か月かな」 夏の大会には間に合わない。 「そんなの意味ね―じゃん」と正人はベットで呟いた。 何のための2年間だったんだ。全部無意味になった。これでおしまいだ。でも怪我をしなかったところで、どうせ一番にはなれなかっただろうしな。選抜ではスタメンにはなれなかったし。俺の才能なんてこんなもんだろう。正人は自分に言い聞かせる。ここでやめる理由なら、いくらでもある。 いくつもの言い訳を考えるうちに正人は先ほどより少し楽になった気がした。 ああ、もうやめだ。スポーツなんかしてもどうせ将来には関係ないしな。プロになれるわけでもないし。 いくらでも出る言い訳に、正人は気分を良くし、そして自分を嫌いになった。 ベットから起き上がると、床に転がっているバッシュが目に入る。そしてそれを、クローゼットの奥に投げ込んだ。 もう見たくない。 深い溜息をついた正人はまたベッドにもぐりこんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!