「メテオドライブ・ロストライト」ぺたへるつ

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「メテオドライブ・ロストライト」ぺたへるつ

「メテオドライブ・ロストライト」ぺたへるつ  遠い昔の話だ。  俺は、星になりたかった。空に煌めく、一つの星。願いを乗せて、夢の頂を目指す流れ星。  でも??  今は、ただの石ころ。  土に塗れて地に転がる、有象無象の小石に過ぎない。  遙か頭上に輝く流れ星どもを羨んでも、あの頃にはもどれはしない。  戻れたとしても、きっと一瞬も煌めけずに地に落ちる。  そんなことはわかっている。  星とは、夢と希望で輝くものだ。  夢も希望も、今は何処にもありはしない。そんなものは、とっくの昔に見失ってしまった。  全ては、闇の中。  俺は、自分の姿さえ覚束ない暗黒を彷徨い、足掻いてきた。  でも??  暗闇の先でこの手が掴むことができたものは、たった一枚の紙切れだった。  最後の辞令だと上司は言った。  不意に渡された解雇通知書は、眩しいほど白く、鳥の羽より軽かった。  別に、勤めていた会社に未練はなかった。仕事も、好きだったわけじゃない。解雇は唐突だったけれど、とりたててショックを感じていなかった。そんな自分に驚いた。まあ、どこかで覚悟していたのかも知れないし、あるいは、これを望んでいたのかも知れない。  明日から出勤しなくてもいい??ただ、その事実に戸惑った。  俺は鎖に繋がれた犬だった。暗闇の中で、鎖に引かれるがままに生きてきた。だから、その鎖を外さてしまったら、どこへ行けば良いのか解らなかった。そんな自分に、思わず苦笑してしまった。  右も左も、前も後ろも暗闇だ。見上げれば星が瞬いているが、そこへと辿り着く術はとっくの昔になくしている。  とにかく、どこか、暗闇を紛らわす場所が欲しかった。 「災難でしたね」  そうして逃げ込むように入った居酒屋には、人の良さそうな主人がいた。 「どこも不景気ですから。うちも、いつまで続けられるか」  路地裏の奥にぽつんと灯りを点けた、小さな店だった。狭い店内には、俺以外の客は数えるほどもいない。カウンター越しに、俺は愚痴を吐き出した。  主人は静かに、時に相づちを打ちつつ話を聞き、合間に酒を注いでくれた。酒の銘柄はよくわからなかった。そんなに強くない代わりに、柑橘類の酸味とミントの風味が利いた印象的な酒だった。主人のオリジナルだったのかもしれない。
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