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愚痴は、とめどなく溢れてきた。
会社のこと、社会のこと、世界のこと、自分のこと、生活のこと、過去のこと。一つ吐き出す度に目の前の暗闇が煌いた気がした。でも、一瞬だけ。すぐに、なお暗い闇に戻る。だから、俺は話し続けた。そうしないと、不安に押し潰されてしまいそうだった。
俺の中から出てくる言葉は、不満だけだった。そして、どんなに不満を吐き出しても、他には何も出てこなかった。
俺には何もなかった。
堆積しヘドロのようになった不満の底には、虚無だけがあった。
「俺は、どうすりゃいいんだろう……?」
無意識に、そんな言葉が出た。
「やりたいことを、なさればいい」
主人の言葉にハッとする。
「あなたがやりたいことを、すればいいんですよ」
髭を蓄えた穏やかな口元が微笑む。
でも、だけど??
「やりたいこと、か」
それが、わからなかった。
「何かあるんじゃありませんか?」
問われて、愕然とする。
本当に、なにも出てこなかった。
答えを求めて、視線が宙を泳ぐ。そこに何があるわけでもないのに。と、カウンターの隅に小型の受情器(インフォニタ)が置かれていることに気づいた。映像だけが映し出されている。他の客に配慮してか、音はない。映し出されているのは、メテオドライブのニュースだった。
空を飛び交う色とりどりの光の軌跡が映った後、一人の少女がクローズアップされる。少女は泣いているようだった。彼女はその細い両腕で、大きなトロフィーを抱えている。
テロップが流れる。
『快挙!星都正杯(セントラル・リーグ)で最年少の飛\ruby{光士}{ルーク}が優勝!』
胸の縄で締め付けられた気がした。
「おや、あなたもメテオドライブが好きなのですか?」
主人は嬉しそうに言う。
「私もね、大ファンなんですよ。特に彼女のね」
画面の中では、少女が必死にインタビューに答えているようだった。音声はないので、何を言っているのかはわからない。
「なんでも、亡くなったお兄さんの夢を叶えるために飛光士になったそうですよ。それが、まだ飛び始めて一年で優勝!すごいですよね。彼女は天才だ。それに、夢に向かってひたむきな姿は、見ていて励まされますね」
俺は何も言えなかった。
曖昧に微笑むだけだった。
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