「Do Not Trust」えむばーど

1/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

「Do Not Trust」えむばーど

「Do Not Trust」えむばーど  サーバールームは、完全な密室だった。湿度は50%に保たれ、オペレーション用の端末からは外部ネットワークへの到達性はなかった。監視カメラはデータ流出への対策基準を満たしており、そのシステムの操作中の映像は、情報流出対策として、すべて完全消去済みであった。 「驚くほどまともな職場じゃないか。こんなところで事件性などあるはずもないだろう。自殺じゃなけりゃ、勤務時間を誤魔化して、勝手なサービス残業をしようとしたなれの果てだよ。第一世代のヤツらは本当に自分勝手だからな」  警察OBからの復帰組の野本は、第二世代の例に漏れず、第一世代を疎ましく思っている節がある。普段から捜査に口を挟もうとするが、今回はやたらとしつこかった。事件性なぞかけらも無いのだから、捜査委託会社に投げて自殺として片付けて貰っておけ、と。 「だから静かにしていただきたいと言っているのですが」捜査一課の松井は語気を強くして言う。「自殺の理由も見当たりませんし、サービス残業も厳しく監視されています。もし過労死ラインを超えていたら、即座にマイナンバー・セントラルから通報がゆき、行政が動いているはずです。それに、今回の現場は私の持ちです」  何かと口を挟もうとする野本を追い出し、松井はため息をつく。つくづく、第二世代の下に居るとやりづらい。たとえ、この世の持ち主が第二世代だとしても、もう少し静かにしてくれていたらと思うことは多い。  松井は首を振る。仕事に集中しよう。  ルーム内は密室状況であった。外から操作しないと開けられない入り口が二つ。その中に一つ死体。常識的に考えれば、サービス残業による過労死か自殺か、どちらにせよ事件性など微塵もない。勤務状況については、直近三ヶ月では朝八時から夜二十二時まで。十四時間勤務という、ごくごく標準的な勤務状況。松井は顎を撫でた。  かつて、サーバールームという密室の中で死体が見つかることは、そう珍しくなかった。発狂したエンジニアが自らの命を絶つ事象が多発したのだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加