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「おさななじみの終息」菱野隆弘
「おさななじみの終息」菱野隆弘
おさななじみが、今日自殺する。
それを僕は三年前から知っていた。
二十三歳の僕は朝家を出て、同い年のおさななじみと共に道を歩く。僕は出勤のため、おさななじみは通学のため、駅に向かう。小学校の頃からのこの儀式は、途中思春期という厄介な過程により中断されはしたものの、この年になると周りの目も気にならなくなり、未だに続いている。同年代のスーツ姿の男と私服の女性が歩いているのは、知り合いの多い昔から住んでいるこの町だからこそ温かい目で見られるけれど、都会に出たらなかなか奇異に思われるのではないだろうか。
「今日化粧濃くない?」いつもよりごってりしているおさななじみの顔を見て、僕は尋ねる。
「今日はねー、ほら、ゼミのあとデートだから」
「まだ付き合ってたんだ。演劇部の人だっけ」わりかしかっこいい人だった気がする。
「情報が古いね。今はサークルの人」
「いつの間に……」
「一週間ぐらい前に乗り換えた」
「聞いてない」
「言ってないから」ぷいと横を向くおさななじみの顔を見ながら、相変わらずとっかえひっかえだな、と思う。とっかえひっかえ。その割に、彼女の手は僕の方には向かないのだけれど。それでもいい、と僕は思う。『おさななじみ』という立ち位置がきっと一番心地いいだろうから。
その立ち位置も、今日失う。
(続く)
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