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それにしても暑い。
それだけが理由ではないが、俺は夏が大嫌いだ。
柚のマンションに着いたので、部屋まで行き、インターフォンを鳴らす。
「はーい!」
という元気のいい声が部屋の中から聞こえてくる。
「哲也だけどー!」
「待って!すぐ開けるから!」
ドタンバタン!という音が中から聞こえる。
何やってるんだか…。
「おまたせ!」
「おじゃましまーす。」
柚の部屋は、さすが女の子というべきか、とても清潔感に溢れており、ほんのりと甘い匂いがした。
ただ、部屋全体がピンクというのはいかがなものか…。
「はい、座って。あっ、お茶入れるね!」
促されるままに座り、お茶が出される。
「で?話があるんだろ?」
「それがね、信じてもらえないかもしれないんだけど、怒らないで聞いてね?」
「お?まあ内容によるかな。」
柚は大きく深呼吸をしてから俺にこう言った。
「遥ー!おいでー!」
その名前を聞いて、俺は取り乱した。
遥(はるか)。
その名前は俺も、柚も、もう会えないはずの人間の名前。
「遥は死んだんだ。」
「うん、でもね、てっちゃん。何でかは私にも全く分からないんだけど、ほら!」
そう。俺の2つ年下の妹の遥は2年前に交通事故で死んだんだ。
でも、柚に呼ばれてこそこそとベットの陰から出てきたのは、間違いなく妹の遥だった。
……足がないだけで、間違いなく。
「あああああえええ?!」
「てっちゃん!落ち着いて!!」
あああああ足がない?!!?!
死んだはずの遥が目の前にいて、それで、足がない?!
「久しぶりだね、お兄ちゃん。」
その声を聞いた時、俺の目からは涙が溢れていた。
「本当に遥なのか……?」
「ん?まあ、幽霊だけどね?」
「はぁ?!」
ゆゆゆゆ幽霊?!
「柚ちゃんとお兄ちゃんにしか見えないんだけど、私は間違いなく幽霊だよ?」
ほら、と足を見せてくる。
分かっている。足がないのはわかっている。状況が全く飲み込めない。
ただただパニックになる俺をよそに、柚と遥は楽しそうに話をしていた。
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