告白

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「んじゃ、俺は帰るな」 「おう、気をつけろよ」  光輝がそう言って離れていく。夕暮れの路地は何かを思い出しそうで嫌いだ。その何かがわからなくてもやもやする。 「えっと、高島くん、呼びづらいなぁ。下の名前は悠平くん。そうやって呼ぶね」  急に人の名前で遊ばれて困惑する。 「何だよ急に。俺の名前がそんなに面白いのか?」 「ん? 聞き覚えがあるだけ。でもその時はきっと、高島くんじゃなくて」 ――――あ、さ、や、ま、くん、だったよね?  ……それはまさしく、俺の旧姓だった。 「お前、どうしてそれを……。こっちへ来てから誰にも言ってないはず……まさか、星川雪乃だなんて偽名なのか?」 「突飛し過ぎだよ。雪乃はまさしく本名だし、悠平くんが覚えてないだけ。――――そういえばこんな日だったっけ。私達が最後に話したのって」 「待てよ。雪乃なんて珍しい名前を忘れるはずない。ならばどこだ、どこで話した?」 「急ぎ過ぎだよ。まずは順を追って話していくから、ちゃんと聞いてね」  ――――私が小学校三年生の頃。今でも覚えてるよ。仲の良い男の子といつも遊んでたの。で、些細な事で喧嘩して、私が泣き出したのを覚えてる。何で泣いちゃったのか、今でもわからないけど、それで泣いてた。男の子は走って帰っちゃって、その後謝りに来たよ。ほっぺたに手の跡ついてたから、きっとお母さんに叩かれたんだよね。それで話さなくなっちゃって。それから鈴の話だった、その子が引っ越しちゃったんだよね。それで、それで――――  後はもう、聞いていられなかった。その記憶が、忘れた記憶のピースになっているように、かっちりとハマって、取り出せなかった。それはもう、記憶の一部で、失った時間の一部で、元には戻らないものだった。 「まさか、ユキちゃんなのか……? あの時は雪乃なんて言ってなかったじゃないか! ユキだけで何もかも済ませて……。どうして……」  俺はきっと泣いていたのだと思う。視界が潤んで何も見えていなかった。彼女がどんな表情をしているのか、わかっていなかった。 「……お母さんがね、ずっとユキ、ユキって呼んでたから、私ずっと自分の名前がユキだと勘違いしてたの。中学に入っていきなり自分の名前を教えられた。衝撃的で今でも覚えてるよ」
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