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「お兄ちゃん。お兄ちゃーん」
ひなたの泣き声で目が覚める。
目が開かなくてひなたの顔が見えない。
「ひなた…痛い所…」
「ないよ。どこも痛くないよ」
僕の身体をゆさゆさ揺らす。
ああ、ひなたは殴られなかったんだ。
勇気を出せてよかった。
いつもは心と身体のふたつが痛いのに、今日は身体がひとつ痛いだけになった。
「ひなた…よかった…」
よかったね。ひなた。
もう泣かなくていいよ。
安心して、そのまま眠った。
僕のからっぽの心にちっちゃな勇気がひとつだけ入って
僕の心はからっぽじゃ無くなった。
ひなたとの公園で、未来の僕に報告したいのに、何度返信しようとしても『圏外です』と表示が出てしまう。
未来の僕からもメールが来ない。
メールの着信フォルダには確かに未来の僕からのメールが残っていた。
からっぽだったフォルダにひとつひとつメールを入れてくれた未来の僕のように
からっぽだった僕の心にもひとつひとつ勇気を入れて、いつか僕の心も勇気でいっぱいに出来るだろうか。
誰よりも臆病で弱い僕だけど、ひなたの笑顔を見ると、今日も勇気をひとつ入れられる気がした。
「もう帰るよ」
切れた唇の痛みに耐えながら、腫れた顔に笑顔を浮かべた。
僕らとアイツの家に辿り着き、扉の前で目を合わせると、ひなたが言った。
「今度は私がお兄ちゃんを守るね」
彼女の瞳はまっすぐに僕を映していた。
「お兄ちゃんは強いから大丈夫だよ」
そっと頭を撫でて、僕らは扉を開けた。
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