浮かぶ猫

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浮かぶ猫

 猫を飼っている。  雌の三毛猫で、ありがちだけど名前はミケ。  昨年亡くなったばあちゃんにとても懐いていたから、ばあちゃんがいなくなってからはかなり淋しそうだったけど、最近は前のような元気さを取り戻した。  といっても、元々ミケはあまり動くことが好きではないらしく、縁側での昼寝が趣味みたいな奴だから、元気といってもはしゃいで動き回るとかはないのだけれど。  かつてのばあちんの部屋。天気が良い日はミケのために、縁側の引き戸を開けておく。そうすると、いつの間にかそこへ来ていて、丸くなったり伸びたりしながら昼寝を楽しむのだ。  ほら、庭から見てれば今日も…!!!  目にした光景に俺は仰天した。ミケが宙に浮いている!  といっても、せいぜい床上二十センチか三十センチ程度だけれど、確かに宙に浮いている。  誰かがクッションでも持ち込んで、その上に乗っているのかと思ったが、そんな物はどこにもない。ミケの真下は素通しの空間だ。  空中に丸まって浮いている猫。怖さは感じないがなんてシュールな光景だろう。  暫く見つめていたらミケが喉を鳴らし始めた。  ばあちゃんが触ってやると、よく響かせていた甘え声。それを聞いた瞬間、気づいた。ミケが浮いてるその位置は、ばあちゃんの膝に乗っけてもらっていた時の高さだということに。  ゴロゴロ、ゴロゴロ。  喉を鳴らし、目を細め、何もない空間に鼻を擦りつける。  俺には何もない空間に見えるけど、縁側には、今、ばあちゃんがいるんだろ?  大好きなばあちゃんの膝にまた乗れてよかったな。好きなだけ甘えろよ、ミケ。あ、でも、お前はまだそこまで年じゃないから、そのままばあちゃんとあっちの世界に行っちゃうのはナシな。 「にゃーぉ」  俺の心の声に反応したかのように、タイミングの良い鳴き声が上がる。それをミケの了解と受け止めて、俺は庭を離れた。 浮かぶ猫…完
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