第1章

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私の部屋の電灯の紐は、うかつに引っ張ってはいけない。何故なら、紐を引くとヘンテコな世界へ飛ばされてしまうから。明かりをつけることは「表」と繋がることを、消灯することは「裏」に呑まれることを意味する。 だから眠るときにベッドから降りてスイッチをいちいち押さなくてはいけなかったり、そこからベッドへ戻るまでの間に本棚と足の小指がゴッツンコしたりして面倒だ。夜中のトイレもまた然り。 いい加減やめてよ、と思う我が部屋の電灯の紐だけれど、実は重宝している。 例えば泣きたいとき。 消灯すると、地球を飛び回れるので、悲しみや怒りなんて簡単に吹き飛ぶ。ボーッとしていると帰り道がわからなくなることもあるから注意は必要だけれど、これが結構楽しい。 さて、今日はどちらの世界に出掛けよう。遊覧飛行も良いけれど、たまには魔法を使って上司たちを蹴散らそうか。 決めた! 電灯の紐を引っ張って、部屋に明かりを灯した。
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