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「早希の彼氏ですよね?」
私は質問の答えとは違う言葉を返した。
「もうずいぶん前に別れたけどね」
そう言いながら私の隣に腰掛けた。
「そうなんですか」
「ここ、いつから通ってるの?」
「最近です。会社から免許取るように言われて」
「そうなんだ。俺は期限切れそうなほどずっと放置してて。最近連れが通いはじめたからまた通いはじめたんだ」
彼がそう言ったところで、学科教習終了のチャイムが鳴った。
遠くでざわめきが聞こえはじめ、学科教室へと続く階段から、教習生たちがバラバラとおりてきた。
「直正?」
その波から、彼を呼ぶ声が聞こえた。
そうだ、直正くんだ。思い出した。
私たちの座っている長椅子の前に、直正くんの友達らしき二人が来た。
「こんにちは」
右側の彼が私に挨拶した。
色白で唇が少し厚い。目も小さく、ハンサムとはいいにくい。けれど好青年、と言う表現がしっくりくる。
「佑典、早速ナンパ?」
「違うわ」
直正くんにからかわれて赤面する彼。
「佑典、こっちが梶」
直正くんが簡単に紹介すると、雑だなぁ、と梶くんが言い、みんなで笑った。
「なにちゃん?」
「凛です」
佑典くんに問いかけられ即答した。
その声、その話し方に私は驚くほどにときめいていた。
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