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少し薄着だからか、森谷さんの車がまだ暖まっていないからか、助手席に乗ると寒気がした。甘い芳香剤の匂いがする。
「ごめん、寒いね」
私の震えに気付いたのか、森谷さんがエアコンの温度を弄りながら言った。
「大丈夫です」
と小さく答えると、森谷さんは苦笑して言った。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ。真っ直ぐ送るから」
私は少し吹き出した。
「警戒してないですよ。修二さんを信じてますから」
「俺じゃなくて修二?」
「修二さんの友達ですから」
森谷さんはまた苦笑した。
「会社の方に向かえばいいのかな」
「はい」
自宅を知られる警戒の心も、なぜか働かなかった。森谷さんが私を送ると言ったことでさえ、どうでもいいことだった。
他愛もない会話を続けながら会社の近くまで戻っていた。
「その先のコンビニで大丈夫です。近くなので」
それこそ警戒でなく、本当に私の家はコンビニの裏だった。
「分かった」
森谷さんは素直に答えた。
コンビニの駐車場に着くと、ちょっと待って、と言ってから森谷さんは車を降りた。
トランクを開け、なにかごそごそとしてから運転席に戻ってきた。
見慣れていない光景に、思わずあっ、と声が漏れた。
森谷さんが赤い薔薇の花束を持っていたからた。
「誕生日だって聞いたから。今日聞いたから何も用意する時間なくて」
そう言いながら花束を渡してくれた。
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