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「ありがとうございます」
自然とそんな言葉が漏れる。
赤よりもっと深い、深紅の薔薇だけの花束。まだ開ききっていないけれど、刺々しい茎はまさしく薔薇。ずっしりと重く、薔薇の香りが広がる。
芳香剤ではなく、この香りだったのだ。切り花がこんなにも香るなんて知らなかった。
「もしかして、年の数あったりします?」
森谷さんは照れたように笑った。
「そのもしかして。さすがに一本だけ白とかは恥ずかしくてできなかったけど。と言うか花束買ったのも初めてだった」
森谷さんが花屋で花束を注文する姿を想像する。それほど不似合いではないと思った。なんでもスマートにこなせそうだ。
「私も、花束もらったの初めてです」
「なんかね、虹色もあったんだよね」
「虹色?」
「うん。でも予約らしくて買えなかった」
「七色なんですか?」
「うん。今度持ってくるよ」
はい、と答え、今度があるのだろうかと少し考えたけれど、このサプライズのプレゼントは心に染みていた。
もしも森谷さんが誠意のない人間で、今日ここで一度限りの関係を迫ってきていたとしたら、きっと私は流されていただろう。佑典くんでなければ誰でも同じだと、半ば自暴自棄になっている自分がいた。
そんな私はこんな心遣いをしてもらえる資格なんてない。
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