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仕事を終えて、教習所まで自転車を走らせる。今まで苦痛だったこの時間が嘘のように、胸が踊る。
大きなガラスの扉を開けて中へ入ると、ひんやりとした空気に身体が冷やされ、その温度差で逆に汗が吹き出る。
いくつも並んだ待ち合いの長椅子に彼の姿を探した。
もう3日目になるが、今日も見当たらない。
鏡を見ようと化粧室へ入った。
鏡の中に映る私。まだ化粧の仕方も分からない。
彼の目に、私はどう映っているのだろう。
学科教習終了のチャイムが鳴り、もしかすると彼を見つけられるかもしれないとロビーに出た。
人混みの中で彼を探したが、見つけられない。
試しに学科の教室を覗いてみたが、最後にそこを出ようとした知らない教習生に、もう誰もいませんよ、と言われてしまった。
はぁ、と落胆のため息をひとつつく。
予約もしていないのにここへ来た自分。長椅子に座っている自分への言い訳を見つけたくなる。
ガラスの扉が開くたび、彼の姿を探した。
二時間ほどたち、窓の外はすっかり暗くなった。
もう諦めて帰ろうとした時、扉が開いた。
「あ、凛ちゃん」
今日扉が開くたび何度も期待した。
また、期待に膨らんでいた胸は微妙に萎んだ。
直正くんだ。
私に気付き、少し乱れた髪を整えながら、寝過ごしたわ、と言った直正くんに笑って答える。
「寝過ごす時間じゃないですよ」
「だな。乗ってくるわ」
直正くんは急いで配車表を出し、路上教習へ出て行った。
はぁ、とまたため息。
今度こそ本当に帰ろうと立ち上がった時、ガラスの扉がまた開いた。
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