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「あっ」
期待しすぎた事態に、言葉が詰まる。
彼だ、佑典くんだ。
「えーっと、凛ちゃんだ?」
「はい」
初めて名前を呼ばれ、嬉しくて元気すぎる返事をした私を見て、彼は笑いながら言った。
「これから?」
「いえ、もう帰るところでした」
と言った後でしまった、と思った。せっかく会えたのに、じゃあ、とここを出なければいけない場面を作ってしまった。
「そっか」
「佑典くん、はこれからですか?」
私も緊張しながら初めて名前を呼んだ。
「うーん、梶と一緒に学科入ろうかと思ったけど、いないな。なんかめんどくさくなったかも」
「あ、直正くん来てましたよ。多分路上」
「マジで?」
私もここに居たい。
でも、どう言い訳して居座れば良いだろう。
あれこれ考えていると、学科教習開始のチャイムが鳴った。
「あータイムリミットだ。梶寝てるんだろうな」
「直正くんも寝過ごした、て言ってましたよ?」
「いつものこと。凛ちゃんもう帰る?」
「佑典くんは?」
「直正終わるの待ってよーかなーと」
「じゃあ私もいます」
好意があることを気付かれてもかまわなかった。
「そう?じゃあ一緒にいよっか?」
深い意味はないのかもしれない。でも、一緒にいようと笑ったその目に、心まで吸い込まれる。
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