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しばらくすると、配車場に戻ってきた教習車からおりてくる直正くんの姿が見えた。
教習最後の時間だったこともあり、館内にはもう数人しか残っていない。
これからバイトだと言っていた佑典くんも立ち上がり、そろそろ帰ろうかという空気が流れた。
「じゃあ、また」
そう言い出すしかない私。
「うん。ありがとね」
佑典くんはそう言ってから、連絡して、と梶くんに気付かれないように口を動かした。
私はまた嬉しくなって頷いた。
戻ってきた直正くんに挨拶してから教習所を出ようとした時、凛ちゃん、と直正くんに呼び止められた。
「ん?」
「暗いし、送るよ」
「大丈夫ですよ。近いし」
そんな気遣いをされて驚いた。
「ほんと?」
「はい。じゃあ、また」
「うん。気をつけてな」
佑典くんだったらよかったのに、と贅沢なことを考えながら自転車にまたがった。
連絡先を聞けたことで彼に少し近付けた。
見上げた月が丸くとてもきれいで、この恋が上手くいく前兆だと勝手な想像をしていた。
本当の彼の姿を知りもせずに。
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