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料理を待ちながらも、少女は不安だった。
このような席を設ける心当たりがないからだ。
昔見た、アニメの1シーンが思い出される。
突然、失敗しても怒らなくなった両親を、自分が養子に出される前触れではないかと勘繰る主人公の話だ。
それは誤解だったわけだが。
「もう、暖房が必要な季節なのね」
「昼間は真夏日でも、もう10月だからな。ここは海風もある」
両親の穏やかな会話。
よかった、二人の機嫌は良いようだ。
三人が席に着くと、すぐにアミューズが出された。
『料理ができるまで、お楽しみください』という意味で出される、小さな料理やお菓子。
今回は小さなリンゴパイだった。
両親ともに、それを美味そうに食べる。
だが少女、篠山 咲にとっては、質問のタイムリミットが迫っているように感じられて仕方がなかった。
「あの、ふがいないことで恥ずかしのだけど……」
思い切って、聞くことにした。
「今回の食事は、何の記念なの? 私には、まるで心当たりがないのだけど……」
それを聞いて、篠山夫妻は互いを見合わせた。
「雪江。先に渡した方がいいかな? 」
「そうね。咲が不安になるならね」
そう言って母親は、バッグから小さな包装紙とリボンで包まれた小さな箱を取り出した。
「開けてみて」
咲は固まった。
「それって、どうやって……」
普段なら絶対に許されない行為。
結局、膝のナプキンの上で静かに開いた。
包装紙などは後でバックに入れる。
「これは……! 」
出てきたのは、CDアルバム。
コンサート会場で大観衆を前に、エレキギターを抱えた女の子が歌っている。
その女の子の髪は赤く、猫のような耳が上に突き出している。
腰から生えるのは赤くフワフワな毛のしっぽ。
真脇 達美と言って、一昔前の人気アイドル歌手だ。
両親に捨てられたはずのCDなのに。
もう一枚は、咲の知らないアルバムだった。
先ほどのソング集で中心に居た少女が猫耳としっぽを外し、20歳ぐらいに成長した姿で写っている。
彼女は穏やかな日差しを受けて海辺の草原にいた。
そして椅子に座り、その膝に知らない男性の頭を預け、上から抱きしめていた。
タイトルには「Precious Warrior 真脇 達美&武志」とあった。
背表紙もない、うすい紙のケース。ビニールも張っていない。
インディーズで出されたアルバムのようだ。
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