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「こんばんは。あなたが咲ちゃんね」
咲には信じられなかった。
CDそのままの声で、自分を呼び、握手を求めている!
「こんばんは。今夜は招待に応じてくれて、ありがとう」
武志もあいさつした。
咲の脳裏に、少し未来の彼らがキッチンにいる姿が思い描かれた。
猫柄のエプロンをつけた達美。
赤ちゃんを抱く武志。
赤ちゃんは大きな赤い猫だった。
いや、そんなはずはない。
「は、初めまして。今夜は、お招きいただきありがとうございます」
咲は、両親がしてくれたことを思った。
きっと、新しいアルバムならEメールによる通信販売のはず。
その時に、今回のショック療法について相談したに違いない。
でなければ、だれがゲストか分からないという満月ディナーショーに招待されるわけがない!
そうか、相手が猫の格好で来るから、私も猫の服を!
咲は、両親と真脇夫妻に感謝した。
達美を見る目が尊敬で見開かれる。
自分が愛する、強さのシンボルがそこにいる!
達美は楽しげに話しかけてきた。
「あなた、お茶や生け花や、ピアノも習ってるんですって?
すごいわ。私も生まれてくる子に習わせたい」
達美に褒められ、咲はすっかり恐縮してしまった。
「そんな、人にお見せするほどの物ではありません……」
そんな咲に、達美は誇らしげに話しだした。
「わたしは彼と、そしてこれから生まれる赤ちゃんはね、未来を作ってるの。
音楽が人を救えるなら、その幅を押し広げたいの。
それじゃあ、楽しんでいってね! 」
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