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夫婦と胎児が舞台についたころ、オードブルが運ばれてきた。
暖かなゴルゴンゾーラのムースと鴨の燻製、それにリンゴのコンフィ添え。
音楽は、静かなバラードから始まった。
アイドル時代の曲の一つで、オフィスラブを扱った有名なドラマの主題歌だ。
武志のピアノから始まる。
柔らかな彼の音色を、咲は気に入った。
やがて達美のギターのリズムが重なる。
おなかの赤ちゃんとで2人分の力が出るのか、その歌声は伸びやかに広がっていった。
途中トークを挟んで、およそ3時間。
フランス料理のフルコースも、最後のコーヒーとビスケットの時間になった。
曲も、あと一曲。 その時に、達美が話しかけてきた。
「実はね、これから歌うPrecious Warriorはね、タケ君が考えてくれた、おばけアドベンチャーのテーマソングなのよ。聴いてみる? 」
おばけアドベンチャー!
それを聞いた時、咲の脳裏に幼い日、達美のことを知った日を思い出した。
子供に大人気の、何年も続くファンタジーバトル系アニメシリーズ。
咲はそのファンの第一世代で、達美に魅了されたのは、その主題歌を歌っていたからだ。
「はい! ぜひ聴かせてください! 」
咲は即答した。
ピアノとギターの旋律が、一気に熱さと迫力を加速させた。
咲には不思議だった。
アイドル時代に比べて、人数も楽器の数も大きく違う。
それなのに、どうやってあの頃より迫力のある曲ができるのか?
そうか。これが音楽の幅を押し広げるという事!!
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