喜怒哀楽

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喜怒哀楽

 オレには欠落しているものがある。オレは、悲しくならないのだ。喜怒哀楽の『哀』が完全に欠如している。  楓もそうだ。そう、楓も…。  オレには家族というものはもう存在していない。妹は早世し、弟も学生だった頃に事故死。母も父も、あとを追うように死んだ。  その時々で、オレは泣くことはなかった。悲しく、ならないのだ。初めはおかしいとも思ったが、そのことで、困ることはなかった。  楓から連絡が来なかった。メール大好き人間の楓は、一日の初めから終わりまでメールを送ってくる。当然オレからもする。そのメールが昨日は一件も来なかったのだ。  今までに数回あった。『ゴメン、スマホの具合がよくなくって…』  そう今回も、きっとそうなんだ。しかしオレの胸は、ドキドキが止まらなかった。  楓の家の鍵は持っている。オレは玄関の鍵を開け、楓の寝室に行った。楓は、眠っていた。  … … …  オレは、救急車を呼んだ。
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