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オレは、楓がいなくなっても泣けなかった。白状な人間だとつくづく思う。
楓に親族がいないことは知っていた。オレが、楓の最期を看取ることになった。
骨になってしまった楓がいる。墓は作らず、いっしょに暮らそう。
オレは楓と一緒に、思い出の場所を巡った。楽しくもなんともない。それはそうだろう。楓はなにも話してはくれないんだ。
楓はショック死。心臓麻痺ということだった。苦しんだ様子はひとかけらもなかった。死の匂いもなかった。ただただ、眠っているだけのようだった。
一番の思い出の場所にたどり着いた。軽く汗が出た。オレが楓に告白するために見繕った場所だ。
実は告白することをメールで明かしていたんだ。楓は相当おもしろがっていた。そして言葉もなく、ふたりして暖かな陽射しを浴びただけの場所になったんだ。
眼を閉じて、太陽を見上げると、あの日が蘇る。隣に楓がいるんだ。
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