ラストダンス

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 オレは覚悟を決め、楓の肩を軽く抑えて、楓をオレの視線に捉えさせる。楓は軽く驚いた顔をする。   「楓、オレのこころにはお前しかしない。けっ…結婚してくれないか」  楓に、笑われた…。 「咬んじゃダメじゃーん! あははははっ!」  …ああ、やってしまった…。オレは、舞い上がってしまったのだ。二年と数ヶ月ぶりのドキドキが、オレを襲ってきたのだ。  オレが結婚を望んで言った訳ではないことは楓もわかっている。プロポーズをしたという記念日が欲しかっただけなのだ。  オレは凹んだが、楓はさらに機嫌がよくなった。笑顔の眩しさがより一層引き立ち、鼻歌混じりになってオレの隣を歩く。楓が鼻歌を口ずさむのは、テーマパークに行った時だけだ。相当に機嫌はいいようだ。オレは諦めた…。楓の機嫌がいいのなら、それに越したことはない。記念日にはならなかったが…。  そう。今日のようなドキドキはなぜ消えたのだろう…。ふたりしてよく話した。 「ヤッちゃってから、消えちゃったよね?」 「…ヤッちゃったって言うな…」  このような会話はいつもだ。楓は少し砕けた言葉を好む。オレは無理に止めているわけではない。楓の言葉を繰り返して、お互いが笑顔になることを望んでいるだけだ。  そう。あの日から、ドキドキが消えた。それまでは、逢う日は必ずドキドキした。胸の高鳴りを押さえられなかったのだ。楓も同じだった。全く、よく似たふたりだ。オレはこの現象などを総括して『双子』と名付けた。  これはよくメールなどでもたびたび現れることになった。 「双子だからね!」  お互い考えていることはあまり変らない。楓の問いかけにオレは平気で答える。当然その逆もある。オレはひとりでほくそ笑んでいたことだろう…。  ――…そうか、告白する時は、ドキドキするんだな…―― オレは、こころに刻んだ。
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