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◇
『これが我が探偵事務所のFirst caseだ』
カケルさんが机に置いた写真には何の変哲もないも無い黒猫がうつているだけ。
…どこかの家の前だろうか?
何となく下町の様な感じがする背景。
ゼブラ模様の首輪をしたその猫はまっすぐとカメラを見てどことなく凛としている。
「ねえ、この猫を探すって事?」
半ばカイトの背中に乗っかりながらミヤビさんが言う。
「重いから乗っかんなよ…」
ゆっくりミヤビさんを押し戻すカイトは嫌そうだけど満更でも無い感じがして、二人は仲が良いんだなと思った。カケルさんがそんな二人に少し微笑む。これまた見慣れている感じの反応だと思った。
「依頼人は俺の元クライアントの知り合い。」
さりげないカケルさんの説明に、少しの違和感を覚えたのは恐らく私だけ。他の5人を見渡してもカイトを含め、誰一人違和感を覚えた様な顔をしていなかったから。
「…もしかしてカケルさんは弁護士さんか何かだったんですか?」
当然、不意に口を挟んだ私に皆の視線が移る。
大の男5人に一斉に間近でみつめられると、結構な迫力と圧迫感を味わうもので思わず少したじろいだ。
「…何でそう思った?」
萎縮した私にいち早く気が付いたカイトが真っ先に切り返す。
「『クライアント』ってお客さんを呼ぶ仕事は限られてるから。一番メジャーなとこで、弁護士さん…」
尻つぼみになってしまった私の言葉を最後に、しばらくの沈黙。実際には数秒の事なんだろうけれど、早く注目を解きたい私にはとても長く感じられた。
その沈黙を最初に破ってくれたのはソウタさんだ。柔らかい笑みを浮かべ、ふっと少し目を細める。
「…さすが、カイトが連れて来ただけの事はあるね。」
その言葉が時間を動かす呪文だったかの様に、ミヤビさんの表情が急にパッと明るくなった。
「ミヅキちゃん、すごい!」
ミ目をクリクリさせて感心してくれているミヤビさんに苦笑い。まさかただ何となく持った違和感をこんなに賞賛されるとは。
「い、いえ…ただ思っただけですので…。」
恐縮した私をカケルさんが笑う。
「いや、でも正解だけどね。弁護士の仕事はしてたよ。まぁ探偵に鞍替えしちゃったけど?」
写真を手に取り「話し戻すよ」と穏やかな声色で皆を見渡した。
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