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「あらま、大胆な。抱き締められちゃった!」
「いや、これは不可抗力です!!」
ニコニコ笑っているミヤビさんを見ていられなくて、先に奥へと歩を進める。
「ミヅキちゃん?ミヅキちゃんてば。」
後ろから追いかけてくるミヤビさんの声色は明らかにカイトが私をからかう時と一緒だ。まさに、『類は友を呼ぶ』。ここでひるんだら絶対しつこい位にからかわれると何となくわかった。
「ミヅキちゃん!」
「何ですか!!」
しつこさに無視し続けるのは困難と判断して今度は私が振り返る。
「敬語と”ミヤビさん”て呼ぶのやめてね。どうもむず痒いんだよね…丁寧な言葉って慣れてなくて。」
私の陥落が嬉しかったのか、それとも楽しかったのかは定かではないけれど、ミヤビさんが白い歯を見せて綺麗に笑った。
随分と笑顔が爽やかな人だな…人懐こいと言うか…。
「あっ!」
「今度は何ですか?」
呆れ気味に聞いた私にミヤビさんが「しっ」と人差し指を口の前に立てた。
「ほら見て」と目線で庭の置くに目線をやる様に促される。目を向けた先では一匹の黒猫が石畳の上にチョコンと座って毛繕いをしていた。
日の光を浴びて、その黒い毛並みが艶やかに輝いている。
「あの猫ですかね?」
「首輪をしていないから、確定ではないけど恐らくね。」
ミヤビさんはかがんだ状態のまま、ゆっくりと前進してから猫に向かってそっと片手を出した。
猫がピクリと体を揺らしてこちらを警戒する。それに少し微笑みながら人差し指を突き出すと、小さくくるくると回し始めた。
何をし始めたんだろうかと思った矢先、猫がその指先に鼻を近づけ、匂いを嗅ぎ出す。
ミヤビさんがそれに合わせて指を少し動かして鼻を撫でると指に頬ずりをし始めた。ミヤビさんのスラリとした掌が喉をさすると黒猫はそのままゴロゴロと喉を鳴らしながら、ミヤビさんの腕に絡み付いて来た。
「す、すごいですね…」
「そう?こいつがなつっこい猫なのかも。」
いや、それは無い。
それなら依頼人はわざわざ探偵に頼まないはずだから。明らかに、ミヤビさんが凄いんだ。
擦り寄って来た黒猫を抱き上げて喉をさすってあげるミヤビさん。黒猫は腕の中で気持ち良さそうに喉を鳴らし、目を瞑る。優しくはにかむミヤビさんはとても柔らかくて素敵に見えた。
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